下塵[カジン]暇人
きつと暇と云ふものが私を戮すのだらう。
或る地下牢の囚人もさう云つて居た。
齷齪と月日を食す客が聞けば窘めらるるだらうか。
有る事無ひ事が頭の中で錯綜し鑓となつては柔ひ心臓を抉る。
其れも総て彼の夏、長らく客と逢つて居なひ時の事だつた。
下らぬ事など考へなければ良かつた。
考へてしまつた為に思考は剥離した意気物のやうに感情を支配し始める。
何時しか己の過ち・羞恥の念から嘗ての友迄憎むやうに成り、
果ては気の置けぬ者など誰も居なくなつた。
何が悪ひのかは既にまう理解つて居るつもりだ。
誰ぞが云ふでも無く雁字搦め。其れを客の所為にする。
背に這ひ寄つて来る悪霊を死に物狂ひで追ひ払おうとも、
こびり憑ひてしまつたものを削ぐ事など到底出来やしなひ。
世俗の快楽に溺れてしまへば忘らるると思つて居た。
然し所詮快楽の熱など直ぐに褪めるものなので在る。
心髄に流るる本能・いの一に欲すものの前では偽りの快楽など無価値に均しひ。
人は気付かぬ所で矢張り本能に従順忠実な活き者なのであらう。
何処で歯車が嚙み合はなくなつてしまつたのか。どれが己の形だつたのか。
此処へ来てまう何も理解らなくなつた。
客を心じず憾み呪ひながら息る道はきつとさう永くは無ひ。
此の様な腐乱した膿味噌ではきつと何も変えられぬ。
熟まれ墜ちた時点で違つて居た。
客が云ふ息る道程を至ぬ迄の其れと捉ふ。
微温湯の様な甘ひ思想。
絶え間無く湧き出づ欲。
脆ひ魂。
さうだ。
総て私がいけなひ。
何時か己ばかりでは無く誰かを相す事が出来たなら。
私には其れすらも適はなひ。
晩年に遺すは慰めの謳。其れも良ひ。
欠陥を誤魔化すのもまう疲れた。
彼れの効き目が途絶えれば忽ち嗤ひは泪に豹変つてしまふ。
後に爛れて往く容が怖ひ。見難ひ。
厭になつた。
直ぐ発つ事が出来ぬのならば、
責めて噓でも客の仕合はせを願ひ日日轉轉とするだけ。
(文学に明るくないし、ファンの方に怒られるかもしれませんが)
夏目漱石さんや太宰治さんのような
古書っぽい書き方をしてみたかったのです。ただそれだけ。
13/03/18